はじめに:なぜ今、同軸ケーブルが注目されているのか?
車載ネットワークが「映像」「センサ情報」「インフォテインメント」など多様化・大容量化するなかで、高周波帯域の安定伝送が求められる場面が増えています。
とりわけGMSLやFPD-Linkなどのシリアル高速伝送(SerDes)を用いたカメラやディスプレイ系の接続においては、同軸ケーブルの採用が急速に拡大しています。
同軸ケーブル(Coaxial Cable)とは、中心導体を絶縁体で包み、さらにその周囲をシールド導体で覆った構造を持つ高周波伝送用ケーブルです。
構造上、信号線とグランドが同軸上に配置されているため、外来ノイズに強く、EMC性能が高いことが特長です。
車載システムでは、以下のような用途で広く使用されています。
・AM/FMラジオ、地デジ、GPSアンテナ
・サラウンドビュー/電子ミラー/バックカメラ
・テレマティクス通信(5G-V2X等)

地域別の主な同軸線種とトレンド
これまで車載用同軸ケーブルは、各地域・各OEMの独自仕様に基づき採用されてきましたが、ISO19642-11:2023により、初めてグローバルで一律にリスト化され、国際的な標準化が進んでいます。

世界的にはRG-174とRTK-031が標準的な50Ω同軸線として採用されており、入手性と価格競争力の面である一方、日本国内においては1.5Cや1.5DS系のJIS規格から発展した同軸ケーブルが多く採用されております。
同軸ケーブルを選定する時に重視すべき技術ポイント
同軸ケーブルの選定項目
選定項目 | 内容と選定時のポイント |
---|---|
特性インピーダンス | 一般的に50Ω。使用するSerDesの推奨仕様と一致させる必要がある |
インサーションロス(IL) | 高周波伝送では損失の少なさが画質・信号品質に直結 SerDes等の要求仕様に適合させる必要あり |
リターンロス(RL) | インピーダンス不整合による反射を抑制する性能 セットでのSパラメータ評価が重要 |
シールド性(EMC性能) | ティア1やOEMの要求仕様への対応が必要 |
耐屈曲性 | ドアやテールゲートなどの可動部に配線する場合は、 屈曲寿命が重要な評価ポイント |
線径(外径) | 車両側の配策スペース、またはコネクタの適合性に大きく影響 |
耐環境温度 | -40〜+105℃、一部+125℃以上が必要 |
※車載用同軸ケーブルの選定においては、ケーブル単体の性能(損失や柔軟性、EMC特性など)だけでなく、コネクタとの組み合わせによる“システム全体の電気性能”が最重要視されます。
特にインピーダンス整合やリターンロスなどの電気的評価項目は、ケーブルとコネクタの物理構造・接合設計に強く依存します。
そのため、セットでの評価・設計が不可欠で、まずはコネクタを決定し、それに適合するケーブルを選定するのが一般的です。
これは、コネクタの構造(センターコンタクト形状やシールド構造)が伝送特性に大きく影響を与えるためであり、特に高周波帯域ではコネクタとの不整合がシステム全体の性能低下につながるためです。
また、コネクタ設計を起点としたトータルインターフェース設計が、設計品質と量産安定性を左右する重要な鍵です。

例えば、同じ50Ωケーブルであっても、SerDes帯域やコネクタとの組み合わせにより、トータルのSパラメータに大きな差が出るため、必ず”コネクタとセットでの電気評価”を前提とした選定が求められます。
まとめ
同軸ケーブルは、差動ケーブルと比べて長距離の安定伝送が可能であり、車載カメラやアンテナ、V2X通信などの用途で幅広く使用されています。
これは、信号とグランドが同軸上に配置される構造により、スキュー(ペア間の遅延差)の影響を受けず、信号品質が距離に左右されにくいという特性によるものです。
ただし、現在の車載設計ではケーブル単体の性能だけでなく、コネクタとの組み合わせによるシステム全体の伝送特性を評価することが重要です。
まずコネクタを選び、その構造や対応径に合ったケーブルを選定する「コネクタ先行」の手法が主流です。
これは、ケーブルよりもコネクタの設計が電気性能に大きく影響し、組立品質や量産の安定性にも直結するためです。
そのため設計者は、
・用途に合ったコネクタシリーズの選定
・コネクタに適合するケーブルとのセット設計
・SerDesやOEM仕様に応じた電気特性
・EMC要件の評価
といった複合的な観点から、信頼性の高い“伝送インターフェース全体”の最適化を行う必要があります。
これからの車載伝送設計では、「コネクタ+ケーブルのセットで性能を確保する」という視点が、信頼性と長期安定供給の両立に不可欠な時代となっています。
