MTD®コネクタの詳細解説|車載イーサネット向けモジュラ差動インターフェース

目次

MTD®コネクタの基本概要

MTD®とは?

 MTD®(Modular Twisted-Pair Data)は、ローゼンバーガーが開発した車載用の差動コネクタシステムです。
 最大の特徴はモジュラ構造(*)にあり、1ペア単位の小型モジュールを必要数だけハウジングに組み込める点です。

 これにより、車載ネットワークにおいて柔軟なペア数構成が可能になります。

 MTD®はUTPケーブル専用のインターフェースで、100BASE-T1や1000BASE-T1などの車載Ethernet規格に最適化されています。

(※)モジュラ構造とは?
   モジュラ構造とは、1ペアの差動信号を扱う最小ユニットを基準に、それを複数組み合わせてハウジングに収める方式を指します。

MTD®主な特徴

 ・UTP専用設計          :シールド不要で軽量化・低コスト化を実現
 ・モジュラ構造による拡張性    :1~5ペアまで柔軟に構成可能
 ・インピーダンス制御された遷移設計:ケーブル~コネクタ間の信号品質を最適化
 ・ハニカム構造による低クロストーク:対称性の高い構造で干渉を最小化
 ・アセンブリ適合性        :手組み・半自動・全自動組立に対応、応力フリー・ねじれフリーで量産性良好
 ・小型・軽量設計         :限られた車載スペースで有効に活用可能
 ・耐環境性            :–40℃〜+105℃、振動・湿気にも対応

基本性能(代表値)

 ・インピーダンス:100Ω(±10Ω)
 ・対応周波数  :DC ~ 1GHz
 ・データレート :~1 Gbps(100BASE-T1 / 1000BASE-T1)
 ・許容電流   :≦1.5A DC
 ・接触抵抗   :≦10 mΩ
 ・動作温度範囲 :–40℃ ~ +105℃
 ・コネクタ保持力:>110N
 ・規格準拠:OPEN Alliance TC2、BroadR-Reach® Spec 3.2、USCAR 2

主な用途と対応プロトコル

 ・車載イーサネット  :100BASE-T1、1000BASE-T1
 ・ADAS/自動運転   :ベーシックなカメラ・レーダー・センサー通信
 ・インフォテインメント:中容量の映像・オーディオ伝送
 ・ECU間通信/診断  :ゾーナルECUや診断用途

製品ラインナップ

MTD®は、さまざまなレイアウトや環境に対応できるよう多様なバリエーションを展開しています。

 ・形状:ストレート/ライトアングル
 ・極数:シングル~クインティプル(1~5ペア)
 ・防水仕様:IP防水タイプもラインナップ
 ・その他:サービス性を高めた交換可能なモジュール設計

MTD®の位置づけとは?

H-MTD®との違いと使い分け

ローゼンバーガーの差動コネクタ(ツイストペアケーブル)には、MTD®(UTP専用)とH-MTD®(STP/UTP/SPP対応)の2種類があります。

両者の比較と使い分けは次の通りです。

項目MTD®H-MTD®
 主な用途100/1000BASE-T1(ベーシックEthernet)100BASE-T1/ 1000BASE-T1
 2.5/5/10GBASE-T1
 SerDes(APIX®、FPD-Link、GMSL™など)
 ケーブル対応 UTPのみ STP/UTP
 周波数帯域 ~1 GHz ~20 GHz
 データレート ~1 Gbps ~56 Gbps
 標準化状況 非標準(Rosenberger独自仕様) USCAR / OPEN Alliance 標準化済み
 強み 軽量・低コスト・シンプル用途 高周波・大容量・グローバル標準対応

 <使い分けの考え方>

 ・MTD®:UTPベースの100/1000BASE-T1に最適。軽量化と低コストが重要な車両。

 ・H-MTD®:STP対応が必要なADAS・自動運転や大容量映像伝送。マルチギガ規格に対応。

MTD®が担う役割(100BASE-T1/1000BASE-T1などベーシック用途)

MTD®は、主にベーシックEthernet用途(100/1000BASE-T1)において、
低コスト・軽量化・簡易ネットワーク設計を求めるゾーナルECUや中位グレード車両に適しています。

限定的採用事例と今後の展開

標準化規格ではないため、採用事例は限定的ですが、ローエンド~ミッドレンジ車両のEthernet用途で今後も活用が見込まれます。

独自インターフェース

MTD®はローゼンバーガー独自仕様のため、他社製品との互換性はありません。
設計・採用にあたっては、必ずローゼンバーガーの製品仕様を前提とする必要があります。

ラインナップ

採用メリットと留意点

採用メリット
 ・UTP専用による軽量・低コスト設計
 ・モジュラ構造により設計変更や拡張が容易
 ・インピーダンス制御・ハニカム構造による高い信号品質
 ・手組み~全自動ラインまで柔軟に対応可能

留意点
 ・STP対応や高周波数帯域用途(マルチギガ通信)には不向き

まとめ

MTD®コネクタは、UTP専用・100BASE-T1/1000BASE-T1に最適化されたローゼンバーガー独自の差動コネクタです。
モジュラ構造、小型軽量設計、量産適合性を備え、ベーシック通信ネットワークにおける軽量・低コスト化に大きく貢献します。

一方、高周波数帯通信や大容量通信にはSTPケーブル+H-MTD®コネクタを推奨します。

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監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

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