RosenbergerHSDt®とは?|HSDインターフェースを利用したSTPケーブル適用高速差動データコネクタ

RosenbergerHSDt®(High-Speed Data twisted pair)コネクタは、長年にわたり自動車業界で標準として使用されてきたRosenbergerHSD®のインターフェース仕様・機構部品をそのまま継承しつつ、車載Ethernetなど1ペアのデータ伝送に最適化されたSTP(Shielded Twisted Pair)ケーブルに対応した差動伝送コネクタです。

既存のRosenbergerHSD®シリーズと同じハウジング、ロック機構、誤挿入防止構造などをそのまま活用しながら、伝送ケーブルだけをSTQ(4芯)からSTP(2芯)へと置き換え可能。

従来の設計資産・生産設備を活かしつつ、よりシンプルで柔軟な配線設計やコストダウンを実現できるのが大きな特徴です。

さらに、主要部品・加工工程が共通化されているため、お客様にとっては新規開発や部品調達のコスト低減、製造ラインの効率化、部品在庫管理の簡素化といったメリットがあります。

この記事では、RosenbergerHSDt®コネクタの開発背景や特長、用途、HSDコネクタとの違いについて解説します。

目次

開発背景と市場ニーズ

近年の自動車業界では、ADASや自動運転、車載カメラやセンサーの進化によって、車内ネットワークに求められるデータ伝送速度と信頼性がますます高まっています。

特に車載イーサネットの普及により、「高速伝送をよりシンプルかつ低コストな配線で実現したい」という市場ニーズが顕著になっています。

こうした背景から、伝送ペア数を最小限に抑えつつ、高速信号を確実に伝送できる新しいインターフェースの必要性が高まりました。

このニーズに応えるべく、ローゼンバーガーはツイストペアケーブル(STP)に最適化された次世代高速伝送用コネクタ「H-MTD®コネクタ」を開発し、市場に投入しました。

一方、自動車メーカーやサプライヤーの現場では、

「従来から標準インターフェースとして広く採用されてきたRosenbergerHSD®コネクタと、同じ外観・実装互換性・操作性を維持したまま、ツイストペアケーブル(2芯)での高速伝送も可能にしたい」

という具体的な要望が根強く存在していました。

これは既存の設計資産や生産設備、検査工程を無駄にせず、部品の共通化や管理効率の向上、量産時のコストダウンにつなげたいという現場の切実な課題に直結しています。

このような顧客ニーズを受けて、RosenbergerHSDt®コネクタは誕生しました。

RosenbergerHSDt®コネクタはHSDで実績ある標準インターフェースと部品設計をそのまま活用しながら、ツイストペアケーブルケーブル対応による柔軟な配線設計と高EMC性能、さらにはコスト効率までを同時に実現した車載用高速差動コネクタです。

RosenbergerHSDt®の基本性能・構造

電気特性

RosenbergerHSD®は、車載通信に最適化された100Ω差動信号伝送用コネクタシステムです。

その設計において最も重視されているのが、信号品質の安定性とEMC(電磁両立性)の確保です。

インピーダンスは100±10Ωに制御されており、差動信号の整合性を保ちながら、高速伝送時の反射や減衰を最小限に抑えるよう設計されています。

基本構造とインターフェース

RosenbergerHSDt®は、RosenbergerHSD®シリーズで培われた高い電気的・機械的信頼性をそのまま継承しつつ、ツイストペア(STP: Shielded Twisted Pair)ケーブルに最適化された設計となっています。

ケーブル側はSTP構造を採用し、HSDに比べて中心導体端子が4本から2本に削減され、ピン配列もSTP用に変更されています。
この点を除けば、コネクタの主要部品や外観、ロック機構、実装寸法はHSDと共通化されており、多くの部品を共用することが可能です。

また、既存HSD用治具や生産設備がそのまま活用できるため、量産移行もスムーズです。

名称役割
 A:STQケーブル信号の伝達
 B:サポートスリーブケーブル編組線との電気接続、ケーブルとコネクタ端子部との機械的補強
 C:中心導体端子相手側中心導体端子・ケーブル芯線との信号ライン接続
 D:絶縁体中心導体と外導体の絶縁
 E:外導体端子相手側外導体端子・ケーブル編組線とのGNDライン接続 、外部ノイズの遮蔽
 F:ハウジング相手コネクタとの嵌合ロック、保持および防水、端子の保護、誤組付け防止
 F1:セカンダリーロック端子保持の補助ロック

RosenbergerHSD®tは何に使われているのか? 代表的な用途

RosenbergerHSDt®コネクタは、主に自動車の高速データ伝送システムにおいて、STP(シールド付きツイストペア)ケーブルを活用した差動信号伝送に最適化されたコネクタです。

従来のHSDが4芯(STQ)ケーブルによる多チャンネル伝送を担っていたのに対し、HSDtは2芯STPケーブルによる単一ペア伝送を活かし、よりシンプルかつコスト効率の高いネットワーク構築に貢献しています。

HSDtはLVDSや車載Ethernet(100BASE-T1, 1000BASE-T1)のような1ペアで対応可能な高速伝送プロトコルに対応しており、以下のような領域で活用されています。

用途カテゴリ具体例
映像・表示LVDS
通信モジュールCAN、Ethernet
センサーネットワークLiDAR、レーダー、環境センサ

RosenbergerHSDt®コネクタのメリットと選定ポイント

HSDt®コネクタを選ぶメリット

RosenbergerHSDt®は、従来のHSD®シリーズのインターフェースを活かしつつ、2芯STPケーブル専用設計によるコストダウン・省スペース化・設計柔軟性を実現しています。 これにより、車載ネットワーク設計の多様な要件に幅広く対応できるのが最大の特徴です。

<主なメリット>
・コスト効率の向上

4芯ケーブル(STQ)に比べ、2芯STPケーブルは安価であり、シンプルな構造のため部品コストや配線コストを削減できます。

・省スペース・軽量化
配線経路をスリム化でき、車載設計で重要な省スペース・軽量化に大きく貢献します。

・高いノイズ耐性(EMC性能)と信頼性
360度シールド構造を維持しつつ、STP配線により優れたEMC・EMI性能を発揮。
車載イーサネットやカメラ信号などノイズに弱い高速伝送用途でも安心して使用可能です。
さらに、20年近い実績を持つRosenbergerHSD®シリーズの主要部品を限りなく共通化することで、従来同等の耐環境性・信頼性を確保しています。
温度・振動・湿度・衝撃など車載に求められる厳しい使用条件下でも、長期間にわたり安定したデータ伝送が可能です。

・HSD®との互換性・設計資産の活用
外観・ロック機構・実装寸法などはRosenbergerHSD®シリーズと共通化。既存の生産ラインや検査治具、設計ノウハウをそのまま活用できます。
新規ライン投資を抑え、既存インフラを最大限活用できるため、大規模量産にも短期間で対応可能です。

HSDt®コネクタ選定時のポイントと注意点

RosenbergerHSDt®コネクタの導入にあたっては、以下の点を考慮することで、より高い信頼性とコストパフォーマンスが得られます。

・ピン配列と配線設計に注意
HSDはSTQケーブルによる十字配列(4芯・2ペア構造)を採用していますが、HSDtは2芯STPケーブルによる横並び配列(1ペア構造)となっています。

そのため、回路のピンアサインやケーブル配策を設計する際には、ペア構成や極性、信号アサインの違いに十分注意が必要です。



・伝送プロトコルと必要帯域
用途に応じて、LVDS・車載イーサネットなど「単一ペアで対応可能な高速伝送プロトコル」かどうかを確認しましょう。

・システム全体の配線設計
既存のHSD®配線網との互換性や、部品在庫・調達管理の効率化も視野に入れたネットワーク設計が可能です。

・EMC要件のチェック
周辺機器や他の配線との干渉リスク、EMC試験条件も事前に検討しておくと安心です。

・OEM・Tier1での採用実績
世界各国の自動車メーカー・サプライヤーでの実績が豊富なため、安心して選定できます。

豊富なラインナップを準備

RosenbergerHSD®のラインナップと同様に、さまざまな用途・設計制約に応じたバリエーションが用意されています。

下記はラインナップの一例となります。
その他、CPA(Connector Position Assuranceを兼ね備えた製品や、嵌合音対応品もございます。

検査キットの提供

ローゼンバーガーは、HSDコネクタシステムを開発したオリジナルメーカーとして、単なる製品供給にとどまらず、測定・評価フェーズにおける包括的なサポートも提供しています。

その一環として、HSDの電気特性やEMC性能を正確に評価するための専用の検査キットや測定治具を数多く取り揃えています。

RosenbergerHSDt®はHSD®と同じインターフェース設計を採用しているため、これらの検査キットや測定治具をそのままご利用いただけます。
これにより、既存の評価体制や測定ノウハウを活かしつつ、HSDt®の導入・検証もスムーズに進めることが可能です。

たとえば、IEC 62153-4-7に準拠した「tube-in-tube法」対応のEMC測定治具は、結合減衰性能を定量的に評価するために最適化されており、業界内でも信頼性の高い手法として広く採用されています。

また、TDR(時間領域反射)測定やSパラメータ測定に対応する専用アダプタや、評価ボードなどもラインナップしており、設計初期から製品量産に至るまで、すべての開発フェーズにおいて、精度の高い評価環境を一貫して提供可能です。

これらの測定支援ツールは、HSDという規格をゼロから定義し、各種試験条件や伝送特性に精通したローゼンバーガーだからこそ実現できるものです。

ケーブルへのアセンブリーのしやすさ

HSDシリーズは長年培った技術と実績により、十分な組立技術が確立されております。

HSDtも同様にハーネスメーカーへは単品部品で販売、組立説明書を提供することで正確な組立てを支援しておりますので、組立設備があればどのASSYメーカーでも生産可能なスキームを実現しております。

HSDを生んだメーカーだからこそわかる豊富な知見

ローゼンバーガーは、HSDコネクタの開発において主要な技術提案者として、構造設計・信号特性・組立性・キー形状・色識別仕様など、現在の業界標準仕様の策定に中心的な役割を果たしてきました。

このように開発過程の初期段階から深く関与してきた経験があるからこそ、HSDの構造が意図する機能や許容誤差、嵌合挙動といった細かな設計思想や運用上のノウハウを他社にはないレベルで蓄積しています。

そして、HSDtはこのHSDで培った構造・設計資産・評価ノウハウをそのまま受け継いでいるため、ローゼンバーガーはHSDtの開発・評価・量産立ち上げにおいても、HSD同様に高い技術サポートと品質保証が可能です。

HSDインターフェース採用時の注意点|他社製コピーリスクと実装トラブル防止策

HSDインターフェースがUSCARなどを通じてオープン化されたことにより、複数のコネクタメーカーが同カテゴリへ参入し、「HSD規格準拠」「互換性あり」といった表現が多く見られるようになっています。

標準化されているのは、あくまで嵌合インターフェース寸法の範囲であり、規格に記載されていない内部構造や寸法公差はメーカー毎に異なります。

電気特性やEMC性能、耐環境性、嵌合部の接点構造、メッキ仕様などは各社独自設計であり、実力差が非常に大きいのが実状です。

特に、高速SerDes信号を扱うADASや周辺監視カメラ、映像などのアプリケーションでは、わずかなコネクタ性能差(接触抵抗の変化等)がノイズ耐性や信号品質に大きな影響を与えることがあるため、慎重な選定が求められます。

■ 電気性能・防水性能の違いに注意
HSDの嵌合形状は標準化されていますが、接点の端子設計(形状・接点圧・接点数)、防水構造、メッキ種類、ケーブルへの端子圧着構造などにより、メーカー毎の性能に大きな差があります。
通信性能(Sパラメータ、EMCなど)や環境耐性、防水性能、組立性は一律ではないため、異なるメーカー同士の嵌合は推奨されておりません。

■ 粗悪品・コピー品のリスク
インターフェース寸法だけを模倣した粗悪な製品(電気特性を満足していない)が市場に出回っており、これらは通信不良や腐食・浸水によるショート・リークなどの不具合を引き起こすリスクがあります。 

■ 異なるメーカー品の混在使用に関する課題
嵌合自体は物理的に可能でも、接点圧や端子構造の違いにより電気性能の悪化やノイズ混入、嵌合荷重の増加、信頼性(耐環境性や防水性)が劣化する不具合事例が多く報告されております。
また、異種メーカー混在時には保証範囲が不明確になるため、やむを得ない場合を除いて、基本的には避けるべきです。

■ 推奨事項
・信頼できるメーカーを設計初期から指定し、図面へ明記する
・各種性能について実力値のデータ取得と評価を行う
・やむを得ない混在使用時には十分な検証と保証範囲の明確化を行う

RosenbergerHSDt®のまとめ

RosenbergerHSDt®は、車載用途における単一ペア差動伝送を効率的に実現するため、RosenbergerがHSD®で培った高信頼インターフェース技術を基盤として開発されました。
HSDt®は単なるコストダウン型ではなく、「信号品質」「EMC」「省スペース」「設計資産の活用」など、現場設計者・調達担当の多様な要求に応えるソリューションです。

近年拡大する車載イーサネットや単一ペア高速伝送のニーズに対し、HSDtが選ばれる主な理由をまとめます。

HSDtが選ばれる主な理由

HSDと同等の信頼性・インターフェースを継承
 HSDで実績ある外観・ロック機構・実装寸法を維持。HSDユーザーはそのままスムーズに移行可能。

・2芯STPケーブルに最適化
 単一ペア差動伝送(LVDS, 100BASE-T1, 1000BASE-T1など)に最適。配線の省スペース化・軽量化を実現。

・高いノイズ耐性・EMC性能
 360度シールド+HSD準拠のハウジング構造で、車載イーサネットやカメラ信号などノイズに弱い用途でも安心。

豊富な量産・設計資産をそのまま活用
 治具や組立ノウハウ、検査ツール(tube-in-tube法・TDR測定等)など、HSD®のエコシステムをHSDtにも適用可能。

業界標準に準拠した品質保証
 USCAR-2やLV214など主要自動車OEM規格に対応。世界のTier1サプライヤーで実績多数。

柔軟なラインナップと拡張性
 車載イーサネット、LVDS、USB、センサー・カメラ用伝送など、単一ペア高速伝送の幅広い用途に対応。

ハーネスメーカーでの量産も容易
 既存のHSD生産ラインやノウハウが活用でき、量産・品質管理がスムーズ。

HSDを開発したメーカーならではの知見
 設計思想や許容誤差、嵌合挙動を知り尽くしたローゼンバーガーならではの細やかな技術サポートを提供。

“HSD互換”を謳う模倣品との差別化
 真のHSD/HSDt技術に基づく信号品質・耐環境性・長期信頼性で、他社品との差別化が可能。

近年は車載ネットワークの多様化に伴い、さまざまなインターフェースが併用される時代になっていますが、HSDtはHSDインターフェースも用いた単一ペア伝送としてコスト効率・安定性・拡張性を兼ね備えた実績ある選択肢です。

重要なのは、用途やプロトコル要件(Ethernet/LVDS/USBなど)に応じて、信号品質・EMC性能・量産性・互換性などを総合的に評価し、最適なコネクタを選定することです。

HSDtは、HSDユーザーにも新規案件にも「まず検討すべき現実解」として、数多くの現場で採用が進んでいます。

評価ボードやSTPケーブル付きサンプル、測定治具、EMC評価サポートなど、ご検討・評価の初期段階からローゼンバーガーオートモーティブジャパンまでお気軽にご相談ください。

豊富な知見とグローバル実績で、最適なソリューション選定をサポートいたします。

Rosenbergerのコネクタカタログ・お問い合わせ

FAKRAやH-MTDなどRosenbergerのコネクタ製品のカタログを無料でご覧いただけます。

監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

目次