Sパラメータ(Scattering Parameters、散乱パラメータ)とは

Sパラメータ(Scattering Parameters、散乱パラメータ)とは、高周波領域における電気信号の「反射」や「透過」の特性を数値的に表現するための手法です。

特にGHz帯以上の高速通信を扱う車載コネクタにおいて、信号品質とEMC(電磁両立性)を保証するために、Sパラメータの解析は欠かせません。

同軸線等の2port測定によるSパラメータの役割と読み方

これらは周波数ごとの複素数データであり、振幅と位相の両方の情報を含むため信号品質を多面的に分析できます。

測定方法と使用機器

Sパラメータの測定には、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)を使用します。
測定時にはSOLTやTRLといった標準校正手法を用い、ポート間の反射と透過の正確なデータを取得します。
測定結果は通常、Touchstone(.snp)ファイル形式で保存され、各種シミュレーションソフト(HFSS、ADS、SIwaveなど)に活用されます。

車載設計におけるSパラメータの用途

車載の高速インターフェース(例:LVDS、GMSL、FPD-Link、ASA Motion Linkなど)では、ケーブルやコネクタのSパラメータによる次のような検討が重要です。

・リターンロス最小化:反射による信号歪みや損失、EMIの抑制
・挿入損失の低減  :伝送品質と伝送距離の確保
・クロストーク評価 :隣接信号線との干渉防止

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差動伝送・共通モードの混合モードSパラメータ

近年では差動伝送系もSパラメータも「混合モード(Mixed-Mode)」で評価されることが増えています。

これにより、差動-共通モード変換(Mode Conversion)やコモンモードノイズの発生源分析が可能となり、より高度なEMC設計が可能になります。

・Sdd(差動→差動):理想的な信号経路の性能指標
・Sdc(差動→コモン):差動信号がどの程度コモンモードに変換されるか(=EMC源)
・Scc(コモン→コモン):ノイズのコモンモード伝搬特性
・Scd(コモン→差動):外来コモンモードノイズが差動信号に混入する影響

これらを評価することで、モード変換によるEMIの発生や、信号品質劣化の原因特定が容易になり、より高度なEMC対策設計が可能になります。

ローゼンバーガーの各種Sパラメータの提供

ローゼンバーガーでは、FAKRA、HFM®、HSD、H-MTD®など、各種車載向けコネクタについて、周波数依存のSパラメータデータを提供していますが、IEC 62153やISO 20860などの国際規格に準拠した試験方法で取得しており、高精度な設計支援データとして活用されています。

これにより、ユーザーは以下の利点を得られます。

・回路シミュレーションへの即時反映(Touchstoneファイル対応)
・設計初期段階での伝送線路全体の最適化
・コネクタ選定時における性能比較の可視化
・EMC解析・SI解析に基づく信号品質設計

まとめ

Sパラメータは、車載コネクタの高周波・EMC性能を定量的に評価する必須の指標です。特に、設計初期から信号伝送特性の見える化を行うことで、トラブルの未然防止や試作回数の削減が期待できます。

ローゼンバーガーの各種コネクタ製品に付随するSパラメータデータを積極的に活用することで、より堅牢かつ高速な車載ネットワーク設計が実現可能です。

監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

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