コネクタ離脱力(disengagement force)または抜去力とは、嵌合したコネクタを引き抜く際に必要となる力のことです。
この離脱力は、端子の保持力(端子同士が接触している部分の摩擦・弾性力)と、ハウジングやシール部材による保持力の合計によって決まります。
設計や調達の現場では「離脱力は高い方が安心」と考えられることもありますが、実際には低すぎても高すぎても問題を引き起こすため、最適な範囲でコントロールされていることが重要です。
また、離脱力はロック機構を機能させない状態で測定するのが一般的です。
これは、ロック解除後にどの程度の力でコネクタが外れるかを確認し、接触保持の安定性を評価するためです。

<離脱力が低すぎる場合のデメリット>
・振動や衝撃での外れやすさ
抜去力が低すぎると、走行中の振動や衝撃でコネクタがわずかに動き、接触不良や通信断につながるリスクがあります。
高周波信号ではインピーダンス変動やノイズ発生につながり、データ伝送の信頼性を大きく損ないます。
・接点部の塑性変形による保持力低下
本来、端子のスプリング部は弾性変形によって適切な接触圧を維持しています。しかし抜去力が低い場合、接点部が塑性変形してクリアランスが広がっている可能性があり、その結果として保持力が弱まり、簡単に抜けやすくなります。この状態では、設計値通りの電気性能や耐振動性能を発揮できません。
・環境変化によるさらなる劣化
保持力が弱い状態では、温度サイクルや湿度変化により端子やハウジングが変形したときに、さらに抜けやすさが助長されます。
結果として、長期使用時の接触安定性・信頼性が確保できないという重大な問題に発展します。
<離脱力が高すぎる場合のデメリット>
・整備・保守作業の困難化
抜去力が過度に高いと、整備時にコネクタを外すのに大きな力が必要となり、作業者が「こじる動作」を行いやすくなります。
これにより端子のピン曲がりや表面めっきの剥離、ハウジングの損傷が発生する可能性があります。
・工具依存度の増加
手作業で外せない場合、専用工具が必要となり、現場での作業効率やメンテナンス性が低下します。
・部材の損傷リスク
強い力での抜去を繰り返すと、シール材の摩耗やロック爪の破損を招き、防水・防塵性能が低下する恐れがあります。
そのため、コネクタの離脱力は単に「高い/低い」で評価するのではなく、組立性・保守性・信頼性の三要素を最適化することが重要です。
ローゼンバーガーのFAKRA、HFM®、RosenbergerHSD®、H-MTD®といった製品群は、ISO 20860、USCAR、IEC 60512などの国際規格を満たしつつ、最適な離脱力レンジに設計されています。
これにより、量産ラインでの組立作業のしやすさ、整備現場での保守性、そして車載通信に求められる高い電気性能を同時に実現しています。



