はじめに|車載同軸通信の進化とMini-Coax導入の背景
自動車の電子化が進む現在、車両内ではカメラ、レーダー、LiDAR、ディスプレイなどの高周波信号が飛び交い、高速・高品質なデータ伝送を実現する小型同軸コネクタの需要が急速に拡大しています。
こうした背景のもと、RMC®(Rosenberger Mini-Coax)は、USCAR Type Bインターフェースに準拠した車載用ミニ同軸コネクタとして開発されました。
RMC®は、高周波性能と信頼性を両立しながら、限られたスペースに対応するコンパクト構造を備えています。
本記事では、RMC®コネクタの技術的特徴、用途、Type A/Type Bのインターフェース違い、およびHFM®(Type A)との位置付けの違いについて詳しく解説します。

RMC®の基本概要
RMC®(Rosenberger Mini-Coax)とは?
RMC®(Rosenberger Mini-Coax)は、車載高速データ伝送向けに最適化されたモジュラー構造のMini-Coaxコネクタシステムです。
最大9 GHzの高周波信号に対応し、軽量・省スペース設計を実現。
コスト削減・小型化・軽量化といった車載開発の主要テーマを同時に満たす次世代の同軸コネクタです。
近年、車両に搭載されるカメラ、センサー、通信モジュールの数は急増しています。
これに伴い、ADASや自動運転、インフォテインメント、V2X通信など、車載電子機器間での高信頼かつ高周波なデータ伝送が不可欠となっています。
RMC®は、こうしたニーズに応えるために開発され、限られた車載スペースでの高周波信号伝送を効率化するモジュラー構造を採用しています。
小型寸法により狭小エリアへの組み込みが容易であり、さらに防水仕様も用意されているため、過酷な車載環境下でも安定した性能を発揮します。
また、USCAR 888-U-xxx-Z03(Type B)に準拠したインターフェースを採用し、高い機械的堅牢性と信頼性を確保しています。
車載用途に求められる振動・温度・湿度などの厳しい要求条件を満たします。
RMC®は、既に複数の世界的自動車メーカーで採用されており、主要な国際車載規格(USCAR、LV214、ISO 16750 など)に完全準拠しています。

RMC®の主な特徴
高周波数対応と高速データ伝送
RMC®はDCから9GHzまでの周波数帯域に対応しています。
これにより、ADASや自動運転、インフォテインメント、V2X通信など、車載電子機器間での高信頼かつ高周波なデータ伝送が可能です。
コンパクト設計
従来のFAKRAと比較して最大80%の省スペースを実現しています。
1極から4極までの多極対応により、複数チャネルの信号を一括で接続可能です。
これにより、配線量や設計スペースを大幅に削減できます。
高いEMC性能とノイズ耐性
RMC®は360°の金属シールド構造を備え、優れたEMC対策を実現しています。
外部ノイズの影響を受けにくく、各種EMC試験にも適合する高い信頼性を提供します。
エンジンルーム周辺や車内の高ノイズ環境でも安心してご使用いただくことが可能です。
高い信頼性と耐久性
RMC®はFAKRA同様にSMB構造をベースに設計され、明確な嵌合と高い保持力を両立しており、 従来のFAKRAに近い感覚で組付けが可能です。
また、LV214・USCAR-49といった車載規格にも準拠しており、温度変化・振動・湿度といった過酷な環境下でも高い信頼性と耐久性を発揮します。
自動組立てによる効率的な量産性
RMC®は金属の構成部品をすべてプレス加工品(板金部品)で統一しております。これにより、量産における生産コストの低減と組立精度の向上、また連続端子による供給が可能になることで自動組立プロセスを実現しています。
豊富なラインナップによる柔軟性
RMC®はモジュール設計を採用しており、1極から4極までの多極構成や防水仕様、水平・垂直タイプなど、多様なバリエーションを展開しています。 これにより、車両の設計要件やスペース制約に応じた最適なコネクタ構成を実現できます。
下記はラインナップの一例となります。その他、CPA(Connector Position Assurance)を兼ね備えた製品もございます。

2-3. RMC®の基本電気性能(代表値)

Type A/Type B の違い USCAR Mini-Coax Type A/Bとは?
USCAR(United States Council for Automotive Research)では、車載用小型同軸コネクタとしてMini-Coax Type A および Type B の2種類のインターフェースを規定しています。
ローゼンバーガーのHFM®がType A、RMC®がType Bに分類されます。
Type Aは高周波性能とモジュール性を最優先した設計、Type BはSMB構造をベースとする設計となっており、どちらも自動車業界で標準的に採用可能な互換カテゴリーです。
※用途や設計要件に応じて柔軟に選択することが可能ですが、Type AとType Bに嵌合互換性はありませんので、注意が必要です。
| 比較項目 | HFM®(Type A) | RMC®(Type B) |
|---|---|---|
| 構造ベース | SMP構造 | SMB構造 |
| 対応周波数帯域 | DC~20 GHz | DC~9 GHz |
| 最大伝送速度 | 最大56 Gbps | 最大24 Gbps |
| 主な用途 | ADAS、レーダー、4Kカメラ、ディスプレイリンク、ECU、インフォテインメント | ADAS、レーダー、4Kカメラ、ディスプレイリンク、ECU、インフォテインメント |
| 耐環境性 | USCAR-49準拠 | USCAR-49準拠 |
標準化インターフェース採用時の注意点(Type A/Type B共通)
Mini-Coax Type A/B インターフェースの標準化範囲は物理的嵌合部の形状のみです。
電気的・防水的性能、耐環境性、長期信頼性はメーカーごとに異なるため、以下の点に注意が必要です。
■ 電気性能・防水性能の違い
嵌合形状は共通でも、接点設計(形状・圧力)やメッキ仕様、シールド方式の差により、
Sパラメータ、インサーションロス、リターンロス、防水性能などの実測値は一律ではありません。
各メーカーの試験データを確認し、量産条件での性能を比較検証することが重要です。
■ コピー品・模倣品のリスク
公開されたインターフェース形状のみを模倣した安価な製品が市場に流通しています。
これらはUSCARやSerDes要件(GMSL™, FPD-Link™, など)を満たさず、通信不良・接点腐食・異常温度上昇を引き起こすリスクがあります。
■ 異なるメーカー品の混在使用
異なるメーカーでも物理的には嵌合可能ですが、接点圧力・メッキ仕様・公差の違いにより、
電気接続や防水性能が低下する場合があります。
プラグとジャックを同一メーカーで統一することが原則であり、特殊な例を除きBCP上のリスク分散も「ペアでの切替」を前提としています。
まとめ|市場動向とアプリケーション要件に応じた最適選定を
RMC®コネクタは、USCAR Type B準拠のMini-Coaxとして、高い堅牢性と量産効率を両立した実用的なソリューションです。
一方で、同じMini-CoaxファミリーのHFM®(Type A)は、20 GHz帯域・マルチギガビット伝送に対応する次世代ハイエンド仕様として、より高周波性能やモジュール拡張性を求める設計に適しています。
いずれのインターフェースも、自動車業界における標準化が進んでおり、将来的には車載高速通信の主要コネクタとして共存する存在となります。
したがって、Type A/Type Bの選定は「市場の流動状況」や「サプライチェーン戦略」、「アプリケーション要求(通信帯域・環境条件・生産ボリューム)」に合わせて柔軟に判断することが望ましいと言えます。
ローゼンバーガーは、Type A/Type B双方のMini-Coaxソリューションを自社開発・生産しており、OEMおよびTier1メーカーの設計・調達・評価プロセスをグローバルレベルでサポートします。
それぞれの特性を理解し、システム要求に最適なMini-Coaxを選択することが、今後の車載ネットワーク設計において最も重要なポイントとなります。

