多極コネクタとは?車載用設計で押さえるべき基礎知識と選定の実務ポイント

車載通信の高速化・多様化に伴い、コネクタに求められる要件も大きく変化しています。

従来は単一信号や電源の伝送に特化した単極コネクタが中心でしたが、最近では複数の信号線や電源を一体化して扱える「多極コネクタ(multi-pole connector)」が主流になりつつあります。

特にADAS(先進運転支援システム)、ゾーナルアーキテクチャ、ゲートウェイECUなど複雑な電装系において、実装スペースの削減と信頼性向上の観点からその重要性が高まっています。

目次

多極コネクタの基礎知識

多極コネクタとは、2極以上の端子を1つのハウジング内に収めたコネクタ形状を指し、信号系・電源系・通信系を統合して配線できる点が大きな特徴です。

接続ピン数が増加することで、以下のような設計上のメリットが得られます。

・省スペース化(コネクタ点数削減)

・一括嵌合による組立工数削減

・伝送品質の一貫性(特に差動対や同軸構造)

クロストーク(Cross talk)また、多極コネクタではクロストークや嵌合力、嵌合確認構造(セカンダリロックCPA)の設計が重要であり、高耐振動性・高信頼性を前提とした設計基準が必要となります。

車載分野での用途と関連性

車載領域では、以下のような用途で多極コネクタが採用されています。

・ADASユニットやセンサ統合コネクタ

・ゾーンECUとバックボーンの接続

・複数チャンネルのカメラシステム(SerDes伝送)

特にゾーナルアーキテクチャの導入が進む中、多極化によるハーネス簡素化と組立性の向上がキーとなりつつあります。

ローゼンバーガーの多極コネクタが選ばれる理由

ローゼンバーガーは、高速伝送対応の多極同軸・差動コネクタソリューションにおいて、業界をリードする製品群を展開しています。

HFM®H-MTD®のような多極構造のコネクタは、車載向けに最適化された高い電気的・機械的信頼性を備えています。

特長1:優れたクロストーク抑制性能

多極コネクタでは、隣接ペア間のクロストーク(Cross talk)が重要な評価指標です。

ローゼンバーガーの製品は、物理的なシールド構造と最適化された内部レイアウトにより、SパラメータでのNEXT(Near-End Crosstalk)やFEXT(Far-End Crosstalk)を大幅に抑制。

これにより、最大20GHz帯域までの高周波伝送においても、信号間干渉が最小限に抑えられています。

また、USCAR 49や各社要求SPECを全て満足するよう独自の設計規格を設け、クロストーク抑制に特化した最適な構造設計を徹底しています。

特長2:高周波特性と低損失設計

ローゼンバーガーの多極コネクタは、電気的特性で業界トップクラスの性能を発揮します。

インピーダンス整合(100Ω、50Ωなど各規格対応)

・低VSWR(反射特性)

挿入損失(Insertion Loss)

・優れたシールド減衰(Shielding Effectiveness > 90dB)

これらの性能により、SerDesベースの高速プロトコル(GMSL、FPD-Link等)でもノイズや信号劣化の少ない安定した伝送を実現しています。

特長3:多極化による設計の自由度と高密度実装

従来の単極構成と異なり、H-MTD® 6-pairやHFM® 4-wayなどの多極モデルでは、差動ペアや同軸ラインを1つのコネクタ内に高密度に集約可能です。

これにより、以下のようなメリットが得られます

 ・ECU実装スペースの最適化

 ・配線取り回しの簡略化

 ・モジュール一体設計への対応

このように、ローゼンバーガーの多極コネクタは、電気的な信頼性と高密度実装性の両立を強みとしており、最新の車載ネットワークにおいて欠かせない選択肢となっています。

多極コネクタの選定時のポイント

設計者が多極コネクタを選定する際に留意すべき点は以下のとおりです。

・極数・レイアウトの柔軟性(将来的な追加対応含む)

・インターフェース規格との互換性

・嵌合・抜去力のバランスと誤挿入防止構造

・接触抵抗・電圧降下の評価

・温度範囲(例:-40℃~+125℃)と環境耐性(防塵・防水)

コネクタ単体ではなく、ケーブル、クランプ、ECU側端子との一体評価が信頼性の高い車載設計には不可欠です。

設計課題と対策:多極化がもたらすリスク

多極化による懸念点としては、以下が挙げられます。

・クロストーク(Crosstalk)の発生
 多極構造では信号線間の物理的距離が近くなるため、高周波成分を含む差動信号間や同軸ライン間でのクロストークが生じやすくなります。

・挿抜力の増加による作業性低下
 極数が多くなるほど嵌合コンタクト数も増加し、結果として挿入時の力が大きくなり、組立性・サービス性が損なわれるリスクがあります。

・振動による接点不良リスク
 エンジンルームや車体外などの振動環境下では、多極構造のすべてのコンタクトに安定した接触圧が確保されていないと、信号断やノイズ発生の原因となります。

・熱膨張差による応力集中
 異種材(プラスチック・金属)や複合構造における熱膨張係数の違いが、端子・ハウジング間に応力を生じさせ、構造疲労や破損につながる可能性があります。

これに対し、ローゼンバーガーでは、多極化に伴う課題を熟知した独自の構造最適化ノウハウと信頼性評価技術により、確実な対策を講じています。

業界の最新動向 : スケーラブルマルチヘッダーが拓く車載配線の未来

車載ネットワークの高密度化と統合化が進むなか、ローゼンバーガーが提案する**スケーラブル・マルチヘッダー(Scalable Multiheader)は、多極コネクタ技術の次なるスタンダードとして注目されています。

この革新的なモジュラー設計は、電源・信号・高速データ伝送を1つのコネクタで統合可能とし、車載配線のスペース効率・軽量化・信頼性のすべてを両立させるソリューションです。

監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

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