車載カメラ、レーダー、IVI、V2X通信といった高速伝送系統の拡大に伴い、「FAKRA mini(またはmini FAKRA)」コネクタの採用が自動車業界で急速に広がっています。
従来から多用されてきたFAKRAコネクタは、その堅牢性と信頼性で高い評価を得てきましたが、規格上の対応周波数は最大6GHzとなっており、近年の車載データ伝送ニーズには限界が生じつつあります。
そこで登場したのが、ローゼンバーガーが開発したHFM®(High-Speed FAKRA-Mini)です。
通称「FAKRA mini」や「mini FAKRA」と呼ばれるようになり、今では業界内で広く使われる名称となりました。
「FAKRA mini」という呼び方は厳密には特定の製品や規格を指すものではなく、複数の異なる設計を含む業界内の通称に過ぎません。
このため、「すべてのFAKRA miniは互換性がある」と誤解されるケースが少なくなく、設計現場での注意が求められます。
特に混乱を招いているのが、ローゼンバーガーのHFM®とTE Connectivity社のMATE-AXという、現在市場で主流となっている2種類のFAKRA mini系コネクタです。
外観は類似していても、両者はインターフェース仕様が異なり、物理的に嵌合互換性はありません。
本記事では、米国自動車技術者協会(USCAR)による正式な分類(Type A/Type B)を整理しながら、適切な製品を選定するためのポイントとその他類似品の注意事項を解説します。
FAKRA miniとは?
FAKRA miniとは、従来のFAKRAコネクタ(ISO 20860 / USCAR-17)を小型・高周波対応化した車載用同軸コネクタです。
この「FAKRA mini」という名称の起源は、ローゼンバーガーが開発したHFM®(High-Speed FAKRA-Mini)※1にあります。
ローゼンバーガーは、自社開発したHFM®のインターフェースをオープン化して他社の利用を可能にし、2022年にはUSCAR(米国自動車研究評議会)がHFM®を含む小型同軸コネクタを対象とした性能評価規格「USCAR-49※2」を正式にリリースしました。
こうした経緯により、FAKRA miniは現在、名称としては業界全体で広く使用され、事実上の標準コネクタとしてグローバルに普及しています。
※1:HFM®
従来のFAKRAと比べて最大80%の省スペース化と、20GHzの高周波数帯にも対応するため、車載SerDes(GMSL、FPD-Link、APIX等)や5G、4K映像伝送などで採用が進んでいます。
・最大ビットレート:最大28 Gbps
・周波数範囲:DC ~ 20 GHz
・特長:50 Ωインピーダンス、コンパクト設計(従来のFAKRAに比べて最大80%の省スペース)、CPAオプション、嵌合音対応
・用途:自動運転、ADAS、インフォテインメント、高データレートアプリケーション
・参照:HFM® – High-Speed FAKRA-Mini – Rosenberger

※2:USCAR-49
USCAR-49は「ミニチュア同軸コネクタシステム(Mini-Coax connector systems)」に対する性能試験仕様で、外径3.6mm以下の同軸ケーブル用コネクタを対象とし、規格では動作周波数帯をDC〜9GHz、インピーダンス50Ωと定めております。
ローゼンバーガーはこのUSCAR-49の規格策定にも主導的に関与しており、HFM®は事実上のリファレンスモデルとなっています。
USCARによる分類:Type AとType B
FAKRA miniに関して最も重要な事実は、USCAR公式サイトにて、Mini Coax RF Connectorsとして複数タイプに分類されているという点です。
・Type A(HFM®):ローゼンバーガー が提唱したインターフェース

・Type B(MATE-AX) :TE Connectivity社が提唱したインターフェース

このように、通称FAKRA miniは1つの規格ではなく、少なくとも2つの異なる非互換インターフェースが存在することが明確に定義されています。
Type AとType Bは物理的に嵌合できず、構造も電気特性も異なります。
よくある誤解と注意点
「FAKRA mini=どれも同じ」は誤解
近年、FAKRA miniインターフェースがUSCARなどを通じて一定範囲でオープン化されたことにより、複数のコネクタメーカーが同カテゴリへ参入し、「FAKRA mini対応」「互換性あり」といった表現が多く見られるようになっています。
しかしながら、オープン化されているのはあくまで嵌合インターフェース寸法(プラグ側のみ)であり、電気特性やEMC性能、耐環境性、嵌合部の接点構造などは、各社独自設計で大きく異なるのが実情です。
※特に、GMSL/FPD-Linkのような高速SerDes信号(ADAS・周辺監視カメラ等)を扱う場合には、わずかな性能差が信号品質やノイズ耐性に重大な影響を及ぼすため、注意が必要です。
選定時のチェックポイント
① タイプの明記(Type A / Type B)
使用するコネクタがType A(HFM)なのかType B(MATE-AX)なのかを明確に指定する。両者は嵌合互換性なし
② 使用用途との適合性
GMSLやFPD-Linkなどの高速SerDes信号伝送を行う場合は、アプリケーション要件に適用しているか、評価実績等を確認する。
③ EMC性能・組立性の比較
各製品のシールド構造やケーブル対応径、組立方法にも違いがあります。システム全体のEMC要件や製造工程での性能ばらつき、ロバスト性を確認する。
まとめ
「FAKRA mini」という言葉は一般化していますが、その実態はインターフェースや電気性能が異なる複数の集合体です。
特に、USCARが正式に分類するType A(ローゼンバーガー HFM®)とType B(TE MATE-AX)は、嵌合互換性がない別のインターフェースである点を、明確に認識する必要があります。
ローゼンバーガーのHFM®は、通称FAKRA miniインターフェースの開発元であり、USCAR-49の基準策定にも貢献した業界の基準コネクタです。
そのため、グローバル市場での実績や信頼性・性能評価用リファレンスボードへの採用・供給体制の観点からも、設計上のリスク低減につながります。
商品カタログなどはこちら:HFM® – High-Speed FAKRA-Mini – Rosenberger
詳しくはこちらの記事でも解説しています。

各種SerDesプロトコルへの適用実績や、グローバル市場での採用事例、USCAR-49に関する詳細情報についてご質問がございましたら、お気軽にローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパンまでお問い合わせください。