FAKRAコネクタの詳細解説|自動車の標準RFインターフェースコネクタ徹底解説

目次

はじめに|車載RFインターフェースの標準としてのFAKRA

現代の自動車には多数のセンサーや通信機能が搭載されており、それらを接続するコネクタの性能や信頼性も年々高度化しています。

FAKRAコネクタは車載向け高周波(RF)信号伝送用として開発され、現在では世界中の主要な自動車メーカーで採用される標準的な同軸コネクタです。

このコネクタは、SMBコネクタをベースとした高周波構造に、360度シールド、14種類の色分けされたプラスチックハウジングおよび機械的キー形状を組み合わせることで、高い電気的性能と視認性、誤嵌合防止、組立作業性を同時に実現しています。

本記事では、FAKRAコネクタの誕生背景から技術的特徴、車載用途、設計上のポイント、製品バリエーション、そして現在の位置付けと今後の展望までを専門的に解説します。

FAKRAの誕生背景|ローゼンバーガーとドイツOEMの共同開発から始まった

FAKRAコネクタは、2000年代初頭にローゼンバーガー(Rosenberger Hochfrequenztechnik GmbH & Co. KG)が中心となり、BMWをはじめとするドイツ自動車メーカー、およびドイツ自動車工業会(VDA)傘下の専門委員会「Fachkreis Automobil (英語で ” Automobil expert group”の意)」との共同で開発されました。
“FAKRA”という名称はこの「Fachkreis Automobil」の略称であり、のちに製品名・規格名として定着しました。

開発の発端 : “バラバラ”だった 1990 年代の車載 RF

1990年代後半、自動車に搭載される通信・インフォテインメント機器やアンテナの数は急増していました。

GPSナビゲーション、AM/FMラジオ、携帯通信、さらには黎明期の車載カメラなど、車内で扱う高周波信号の種類と数が急激に増加していたのです。

当時、これらを接続する高周波同軸コネクタはOEMごとに仕様がバラバラで、接続信頼性や互換性、組立効率に関する問題が頻発していました。

かつては民生用のSMAやSMBコネクタが流用されていましたが、車載特有の耐振・耐衝撃性や誤嵌合防止などの要件を満たせず、また量産対応にも課題がありました。

<当時の課題>
・耐環境性不足
・インピーダンス不整合
・組立工数増大
・OEM間の非互換

このような背景から、車載環境に適した新しい高周波同軸コネクタの必要性が業界全体で高まり、ドイツ自動車工業会(VDA)傘下の専門委員会 Fachkreis Automobil が設立され、標準化の動きが始まりました。この開発を技術面からリードしたのが、ローゼンバーガーです。

ローゼンバーガーは、SMBの優れた電気性能を残しつつ車載環境向けに特化した樹脂筐体(ハウジング)を追加した”車載専用 SMB 派生コネクタ”として提案。

これがFAKRAコネクタの原型となりました。

その後Fachkreis Automobilにおける標準化活動を経て、FAKRAは2004年にISO 20860-1/-2として国際規格化されました。

さらに北米の自動車業界標準であるUSCAR-17/-18にも採用され、現在では世界中のOEMにおいて事実上の業界標準として広く利用されています。

なぜローゼンバーガーがFAKRAの開発を主導できたのか?

FAKRAコネクタの開発において、ローゼンバーガーが中心的な役割を果たすことができたのは、以下のような技術的・組織的な強みがあったためです。

高周波同軸技術の中核メーカーだった

ローゼンバーガーはもともと軍事・航空宇宙・通信分野での高周波同軸コネクタ専門メーカーとして創業し、50年以上にわたる高周波技術の蓄積がありました。

特に同軸コネクタ(SMA, SMB, Nなど)の精密加工・メッキ・組立・シミュレーション・評価技術では世界トップクラスの水準にあり、車載用途の過酷な振動・温度・EMC要件にも耐える品質を持っていました。

業界標準化プロセスへの初期段階からの関与

FAKRA規格を策定したVDAの委員会 Fachkreis Automobilには設立初期からローゼンバーガーが参画し、BMWや他の自動車メーカーとともに、試作段階からの構造提案を主導しました。

試作・評価・組立まで一貫対応

ローゼンバーガーは本社工場に切削加工、成形、自動組立、高周波評価、EMC測定の各設備を保有し、社内での短サイクルなPDCA(試作→評価→改良→再試作)を実現しています。

この高速な開発ループが、規格策定プロセスで大きなアドバンテージとなりました。

開発力とフィードバックスピードに基づく信頼の獲得

ローゼンバーガーはBMWをはじめとする欧州OEM各社との関係が深く、設計初期段階から技術フィードバックを直接受け取れる立場にありました。

そのフィードバックを即座に製品設計に反映し、OEM各社の実要求に即したコネクタ形状・構造を提案。
これにより技術的信頼を獲得し、FAKRA策定における“実質的リーダー企業”となっていきました。

このような経験と体制を背景に、FAKRAのみならず後続のHFM®、HSD、H-MTD®といった車載高速伝送向けコネクタにおいても、  開発段階から業界をリードする技術提案・標準化・量産支援を一貫して提供しています。

ローゼンバーガー製FAKRAの基本性能・構造

電気特性

FAKRAは最大6GHzの広帯域に対応する50Ω同軸コネクタであり、GPS、ラジオ、セルラー通信、V2Xなど多様なRF信号を安定して伝送できます。

近年では、ADASや周辺監視カメラ、HD映像伝送などの高帯域を要求するアプリケーションにおいても、採用が急速に拡大しています。

自動運転や次世代インフォテインメントシステムのように、膨大なデータを確実かつリアルタイムに送受信するシステムでは、FAKRAの信号整合性の高さが重要な役割を果たします。

基本構造とインターフェース

主な用途

ローゼンバーガー製FAKRAは以下の用途に広く採用されています。

・AM/FMラジオアンテナ
・GPSテレマティクス/ナビゲーション
・モバイル通信 (4G/5G)
・周辺監視カメラ
・ADAS等のADAS ヘッドユニット
・インフォテインメント/テレビ
・Bluetooth /WLAN
・キーレスエントリー用の無線周波数リモコン
・センサー

ローゼンバーガー製FAKRAが支持される理由

ローゼンバーガー製のFAKRAコネクタは世界中のOEM・ティア1メーカーから高い信頼と評価を得ています。

その理由は、以下に示す多面的な技術的優位性と対応力にあります。

優れたEMC特性

360度シールド構造により、外来ノイズの影響を抑制し、高周波環境でも安定した通信を実現します。

IEC 62153-4-7(Tube in Tube, 三軸法)の測定結果においても業界ナンバー1の性能を誇ります。

・RF leakage:≧ 65 dB up to 6 GHz

耐環境性能、OEM各社の要求を満足させる仕様

温度、振動、湿度、塩害など厳しい自動車環境試験に合格し、世界中のOEMやティア1メーカーでの実装実績があります。

・LV214
・USCAR2、17
・JASO D616
・ISO 20860-1、2
・各社コネクタ要求スペック

※OEM特有の要求スペックに合わせたカスタム仕様のFAKRAも展開しております。

高い防水性能

IP6K9K等級対応の製品ラインも展開しており、車外配置や高圧洗浄環境でも安心して使用可能です。

防水部は独自の3山リブ構造を設定し、一般的な防水コネクタで用いられるOリング構造よりも安定した防水性能を誇っており、防水コネクタのベンチマーク的な存在となっております。

豊富なラインナップを準備

配線レイアウトや基板配置、防水仕様など、お客様の要求に沿った豊富なバリエーションを揃えております。

これにより、車両の設計自由度が飛躍的に向上し、限られたスペースや複雑な取り回しが求められる場合においても柔軟に対応いただけます。

ラインナップとしては、1極~4極構成、ストレート/ライトアングル形状、ウェーブはんだ/リフローはんだ対応、さらに自動圧着対応のFAKRA SFまで用意されており、多様な設計要件にフィットする最適なソリューションを提供可能です。

PCBコネクタ:バリエーション

1極~4極
・ストレート/ライトアングル
・ウェーブはんだ/リフローはんだ(ピンインペースト)
・カメラケース一体

ケーブルコネクタ:バリエーション

1極~4極
・ストレート/ライトアングル
・防水/非防水
・ショートタイプ
・CPA付き
・嵌合音対応 (JASO 623他日系OEM要求)
・クリップスロット付き

圧着端子には、切削工程で作られる性能重視の『FAKRA 2』と、生産性とコストを重視したプレス部品の『FAKRA SF *』を用意しており、お客様のニーズにあった製品をお選び頂けます。
* Stamped and Formed

・FAKRA 2 :切削端子・・・電気性能重視(マニュアル組立)
・FAKRA SF:プレス端子・・・生産性・コスト重視(全自動組立)

検査キットの提供

電気特性などを実機で確認するための専用検査ツールも、各種取り揃えています。

これらの検査キットは、製品の初期評価から量産品質の安定化、さらにはトラブル時の解析対応まで、幅広い工程でご活用いただけます。

ローゼンバーガーは、もともとSMA、SMB、SMPといった高周波測定用コネクタの分野で、長年にわたり世界的な実績を持つ精密高周波コネクタの老舗メーカーであり、計測・評価のためのコネクタ製品や治具開発にも強みを持っています。

その経験とノウハウを活かし、FAKRA用にも専用のキャリブレーションキットをラインナップしています。

信頼性・再現性に優れた試験が実施可能であり、OEMおよびティア1の開発現場における評価プロセスを強力に支援しています。

チップベンダーからの信頼

ローゼンバーガー製FAKRAは、主要なSerDes ICを供給する世界的な半導体メーカー各社との共同評価・検証実績が豊富です。

これにより、各ベンダーのリファレンスデザインにも正式採用されており、車載カメラやインフォテインメント、先進運転支援システム(ADAS)などの分野で幅広く活用されています。

特に、信号品質に厳しい要求が課される高速映像伝送においては、ICとコネクタの組み合わせによるSパラメータやEMC性能、嵌合信頼性などの事前評価が極めて重要です。

ローゼンバーガーは長年にわたり高周波技術に特化したノウハウを蓄積しており、これがチップベンダー側からの高い信頼につながっています。

このような技術的な連携体制により開発初期段階からICメーカーと共同で信号シミュレーションや実機評価を行えるため、システム設計者にとっても安心して採用できる環境が整っている点がローゼンバーガー製FAKRAの大きな強みです。

ケーブルへのアセンブリーのしやすさ

FAKRAシリーズは、長年の供給実績と技術蓄積により、安定した組立性が確立されています。

ローゼンバーガーでは、各ハーネスメーカーに対してコネクタ単品での供給に加え、詳細な組立説明書や技術サポートを提供しており、必要な組立設備さえ整っていれば、どのアッセンブリーメーカーでも正確かつ安定した生産が可能です。

この柔軟な供給体制により、部品調達や組立外注の自由度が高く、OEM・ティア1におけるサプライチェーンの安定化とBCP対策にも貢献しています。

FAKRAを生んだメーカーだからこそわかる豊富な知見

ローゼンバーガーは、FAKRA規格の開発における主要技術提案者であり、構造設計・信号特性・組立性・キー形状・色識別仕様など、現在の業界標準仕様を定めるうえで中心的な役割を果たしてきました。

このように開発過程に深く関与していたからこそ、FAKRAの構造が意図する機能や許容誤差、嵌合挙動などに対する深い理解を持ち、他社では再現しにくい運用上のノウハウを保有しているため、試作〜量産までの検証を強力にサポートしております。

標準化インターフェース(FAKRAインターフェース)採用時の注意点

FAKRAインターフェースがUSCARなどを通じてオープン化されたことにより、複数のコネクタメーカーが同カテゴリへ参入し、「FAKRA規格準拠」「互換性あり」といった表現が多く見られるようになっています。

標準化されているのは、あくまで嵌合インターフェース寸法の範囲であり、規格に記載されていない内部構造や寸法公差はメーカー毎に異なります。

電気特性やEMC性能、耐環境性、嵌合部の接点構造、メッキ仕様などは各社独自設計であり、実力差が非常に大きいのが実情です。

特に、GMSLやFPD-Linkといった高速SerDes信号を扱うADASや周辺監視カメラなどのアプリケーションでは、

わずかなコネクタ性能差(接触抵抗の変化等)がノイズ耐性や信号品質に大きな影響を与えることがあるため、慎重な選定が求められます。

■ 電気性能・防水性能の違いに注意

FAKRAの嵌合形状は標準化されていますが、接点の端子設計(形状・接点圧・接点数)、防水構造、メッキ種類、ケーブルへの端子圧着構造などにより、メーカー毎の性能に大きな差があります。

通信性能(Sパラメータ、EMCなど)や環境耐性、防水性能、組立性は一律ではないため、異なるメーカー同士の嵌合は推奨されておりません

■ 粗悪品・コピー品のリスク

インターフェース寸法だけを模倣した粗悪な製品(電気特性を満足していない)が市場に出回っており、これらは通信不良や腐食・浸水によるショート・リークなどの不具合を引き起こすリスクがあります。 

■ 異なるメーカー品の混在使用に関する課題

嵌合自体は物理的に可能でも、接点圧や端子構造の違いにより電気性能の悪化やノイズ混入、信頼性(耐環境性や防水性)が劣化する不具合事例が多く報告されております。

また、異種メーカー混在時には保証範囲が不明確になるため、やむを得ない場合を除いて、基本的には避けるべきです。

■ 推奨事項

・信頼できるメーカーを設計初期から指定し、図面へ明記する

・各種性能について実力値のデータ取得と評価を行う

・やむを得ない混在使用時には十分な検証と保証範囲の明確化を行う

ローゼンバーガー製FAKRAまとめ

・広帯域伝送への対応: 最大6GHz対応の50Ω同軸構造により、GPS、AM/FMラジオ、LTE/5G、V2X、車載カメラなどの多様な高周波信号を安定的に伝送。

・堅牢な構造と視認性: SMBベースのコネクタ構造に360度シールド、色分けハウジング、14種類の機械的キー構造を組み合わせ、耐環境性と誤嵌合防止を両立。

・選ばれる理由: 電気特性・EMC特性に優れ、各国OEMとの量産・開発実績が豊富。主要SerDesベンダーとも連携し、リファレンスデザイン対応。

・組立と品質管理支援: 組立説明書・治具の提供により、ハーネスメーカー各社での安定した量産を支援。検査キットも完備し、試作〜量産までの検証を強力にサポート。

・標準化の誤解と注意点: FAKRAの“規格準拠”はあくまで嵌合寸法のみ。接点構造や電気性能、EMC特性はメーカーによって大きく異なるため、信頼できるサプライヤーの選定が不可欠。

・柔軟なケーブル対応: RG174、RG58、RTK031、1.5DSなど多様な同軸ケーブルに対応し、設計自由度と最適化を実現。

近年のセンシングシステムや周辺監視カメラ、ADASなどの進化により、FAKRAで対応可能な6GHzまでではカバーしきれないケースも増えてきました。

そのため、さらなる高周波対応が可能なHFM®(High-Speed FAKRA-Mini)シリーズもすでに世界中で展開されています。

とはいえ、FAKRAは依然として既存の車載通信ネットワークにおいて高い安定性と汎用性、そしてコスト効率を誇り、多くの車載アプリケーションで今後も継続的な採用が見込まれます。

FAKRAの特性と限界を正しく理解し、用途や将来の要求に応じたコネクタ選定と設計を行うことで、より信頼性の高い車載通信ネットワークの構築に繋がります。

ご検討・評価段階からお気軽にローゼンバーガーオートモーティブジャパンまでご相談ください
評価用ボード・ケーブルアセンブリ・測定・信頼性評価まで対応いたします。

監修者

1990年~車載アンテナメーカーである株式会社ヨコオに入社。衛星通信機器の電気設計及びセラミックアンテナ及びフィルターの設計に従事し、その後車載通信機器事業部の電気設計管理職となり主に車載アンテナの開発を遂行。2018年~高周波コネクタ製品のトップシェアメーカーであるローゼンバーガーの日本法人であるローゼンバーガー・オートモーティブ・ジャパン合同会社に転職し、車載通信機器の開発で培った知識を生かし、マネージャーとして各OEM及びTier1へ製品の市場導入サポートを行っています。

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