コネクタの性能は端子だけで決まるものではありません。
ハウジング材料の選定は、耐熱性・寸法精度・防水性・嵌合寿命・耐薬品性など、コネクタ全体の信頼性を左右する重要な要素です。
特に車載用途では、エンジンルームの高温環境、オイルや冷却水への曝露、長期間の振動など、過酷な条件下で使用されるため、用途に応じた樹脂材料の選定が不可欠です。
本稿では、車載コネクタのハウジング/インシュレータに使われる代表的な5系統の樹脂を、設計者が実際に選定で見るべき指標(荷重たわみ温度、融点、吸水、線膨張、誘電特性など)に紐づけて解説します。
Rosenbergerの製品で実際に採用している材料を主軸に取り上げます。
ハウジング材に使われる樹脂の全体像と、見るべき指標
ハウジングやインシュレータに使われる樹脂は、おおむね次の5系統に整理できます。
・PA(ポリアミド系:PA6、PA66、PA12…)
・PPA(半芳香族ポリアミド系:PA6T、PA9T、HTN…)
・PBT(ポリブチレンテレフタレート)
・PPS(ポリフェニレンサルファイド)
・LCP(液晶ポリマー)
いずれも「エンジニアリングプラスチック(エンプラ)」「スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)」に分類され、耐熱性・寸法安定性・電気特性・耐薬品性といった、コネクタ用途で要求される性能に振った材料群です。
実際にはガラス繊維(GF)やガラスビーズ(GB)、ミネラルなどを添加した強化グレードとして使われることがほとんどで、後述の物性値も強化グレードを前提にしています。
ハウジング材に使われる樹脂の選定で見るべき主要指標
材料名だけで判断せず、最低限この5つはデータシートで確認することをおすすめします。
・融点(Tm):
はんだリフロー工程を通せるかを左右します。
鉛フリーリフローのピーク温度は約260℃なので、融点がここに対してどれだけ余裕を持つかが分かれ目になります。
・荷重たわみ温度(HDT、Heat Deflection Temperature):
荷重(一般に1.8MPa)をかけた状態で変形し始める温度。
連続使用温度や、リフロー後の反り(コプラナリティ)に効きます。なお自社資料で「HTD」と表記されることがありますが、正しくは HDT です。
・吸水率:
吸湿すると膨潤して寸法が変わり、剛性・強度も落ちます。
多ピンコネクタの接点間隔やコンタクトの接触力に直結する、見落としやすい指標です。
・線膨張係数(CLTE):
基板(FR4)との差が大きいと、リフロー後に反りや実装不良を招きます。
・誘電率/誘電正接(Dk / Df):
高速差動信号のインシュレータでは、この低さが挿入損失や反射に効きます。
高速通信用コネクタでは特に重要です。
各材料の特徴と用途
PA(ポリアミド系:PA12 / PA66)
PA(Polyamide/ポリアミド)はアミド結合(-CONH-)を主鎖に持つ樹脂の総称で、PA6やPA66は一般に「ナイロン」として知られています。
機械強度・耐摩耗性・耐薬品性・電気特性のバランスがよく、車載・産業の主力材料です。
PA66は、ナイロンの中でも機械強度と耐熱に振ったグレードです。
融点は約260℃と高く、ガラス繊維強化(PA66-GF30など)でHDTは1.8MPaで200〜260℃級まで上がり、引張強さも150MPaを超えてきます。
一方で弱点は吸水で、無強化PA66の飽和吸水率は8%超に達します。
ガラス繊維を入れると吸水による寸法変化はかなり抑えられますが、それでも吸湿の影響はゼロにはなりません。
高い剛性と耐摩耗性を活かし、嵌合回数の多い部位や強度が要る部位、PCBコネクタなどに使われます。

PA12は、Rosenbergerの車載ケーブルコネクタやFAKRAハウジングで採用している材料です。
PA12は分子鎖が長くアミド基の密度が低いため、PA66とは異なる強みを持ちます。
<特徴>
・吸水が非常に低い:
飽和でも1.5%前後、GF30グレードの24時間吸水で0.7〜0.9%程度と、PA66より一桁低いレベル。
湿潤環境でも寸法と特性が安定します。
・柔軟性・低温靭性が高い:
−40℃でも靭性を保ち、ケーブル側コネクタの取り回しや嵌合の繰り返しに有利。
・耐薬品・耐燃料性に優れる:
オイルや燃料、洗浄液への耐性が高く、車載環境向き。ただし融点は約178℃と低く、PA66より処理温度は下げられる反面、リフロー工程には通せません。
あくまでケーブル側・圧着系コネクタ向けの材料です。
なお、ローゼンバーガーのインシュレータに見られる PA12-GB30 の「GB」はガラスビーズです。
球状フィラーは繊維のような異方収縮を生まないため、反りが少なく等方的な寸法精度が得やすく、端子保持の精度が要るインシュレータに向きます。
対してガラス繊維(GF)は強度・剛性・HDTを大きく引き上げますが、流動方向に異方性が出るのが特徴です。
この使い分けは設計意図を読み解くうえでのヒントになります。
PPA(半芳香族ポリアミド/高耐熱ナイロン・HTN)
PPA(Polyphthalamide:半芳香族ポリアミド)は、 主鎖に芳香環(ベンゼン環)を取り込むことで、
高耐熱・低吸水・高寸法安定性を実現した“高耐熱ナイロン”です。PA6T、PA9T、
そしてローゼンバーガー製品にも見られる HTN(高耐熱ポリアミド、PPA系)などが代表例です。

<特徴>
・高耐熱:融点は約310〜325℃級、HDTは260〜300℃級に達するグレードもあり、リフローに対応します。
・PAより吸水が低く寸法変化が小さい(おおむね0.2〜0.5%)。
・高温下でも機械的強度を維持し、耐液性も良好。
・コストは標準PAより高め。リフロー対応かつ高温・高精度が求められる部位、基板対基板コネクタや端子保持部、ロック機構周辺などに使われます。
PBT(ポリブチレンテレフタレート)
PBT(Polybutylene-terephthalate)は、寸法安定性・絶縁性・コストのバランスに優れた汎用エンプラで、コネクタハウジングに広く使われます。
ローゼンバーガーでも、ガラス繊維強化グレード PBT-GF20やPBT-GF30 をハウジングに採用しています。
<特徴>
・吸水が低く寸法が安定(GF30グレードで0.2〜0.3%程度):湿度が変わっても電気・寸法特性が崩れにくい。
・耐薬品性が優秀で絶縁性も良好。・標準的なGFグレードのHDTは1.8MPaで200〜210℃程度。
ただし融点が220〜230℃と低く、リフローのピーク温度(約260℃)に対して余裕がないため、
SMTリフローには不向きです(溶融・反りのリスク)。
寸法精度は要るがリフローは不要、かつコスト優先という部位向き。
スルーホール(DIP)コネクタ、ピンヘッダ、汎用ケーブルコネクタ、カメラケース周りなどに適します。
PPS(ポリフェニレンサルファイド)
PPS (PolyPhenylene-Sulfide / ポリフェニレンサルファイド)は高耐熱・高寸法安定・高耐薬品性を備えた
“スーパーエンジニアリングプラスチック”です。 ただし靭性は低く脆いという弱点があります。
<特徴>
PPS(Polyphenylene-Sulfide)は、高耐熱・高寸法安定・高耐薬品を備えたスーパーエンプラです。
車載コネクタ業界で高温・耐薬品部位に広く使われる材料なので、比較対象として押さえておくと選定の幅が広がります。
・高耐熱:30%GF強化グレードでHDTは260〜270℃級、リフロー対応可。・ 吸水が極めて低く、寸法安定性が非常に高い。
・耐薬品性は最高クラス。
・一方で靭性が低く脆いため、ロック爪やラッチのような繰り返し変形・衝撃を受ける可動部には不向きです。
高温・薬品暴露があり寸法精度も求められる部位(車載センサー、高温環境のコネクタ、リフロー対応の小型コネクタなど)に向きます。
LCP(液晶ポリマー)
LCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)は、溶融時に分子が流動方向へ配向しながら固化する特殊なスーパーエンプラです。
その結果、超高流動・超薄肉成形・高耐熱・低吸水・低誘電という、微細・高速のコネクタに理想的な特性を併せ持ちます。
ローゼンバーガーでは高速信号系コネクタのインシュレータにLCPを採用しています。

<特徴>
・高耐熱:融点は約280〜330℃(グレードにより幅が大きい)、HDTは240〜300℃級まで取れるグレードもあり、リフロー対応可。
・吸水が極めて低く、反り・後収縮が小さい。・流動性が非常に高く、0.4mmピッチ以下の微細・薄肉成形が可能。・低誘電で高速差動信号のインシュレータに有利。
注意点として、流動方向に対する異方性があり、ウェルドライン部や流動直交方向では強度が落ちます。
ゲート設計・ウェルド位置の配慮が必要です。
SMT対応のマイクロピッチコネクタ、基板対基板、そして高速信号コネクタのインシュレータに向きます。
材料比較
※本表はあくまで一般的な指標です。メーカーやグレードで特性は変わるため、採用時は各データシートでご確認ください。
凡例:◎=特に適(上位) ○=適 △=条件付き/相対的に弱い ×=不適
| 観点 \ 材料 | PA12 | PA66 | PPA (HTN) | PBT | PPS | LCP | 補足(評価の根拠) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| リフロー対応 | × | × | ○ | × | ○ | ○ | ○=PPA/LCP/PPS(高融点・低吸水)/ ×=PA12・PA66・PBT(融点余裕が小さい/吸湿ブリスター) |
| 嵌合サイクル耐性 | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ | ◎=PA系(耐摩耗・靭性が高い)/ ○=PPA/ △=PBT・PPS・LCP(靭性低め・脆い) |
| “寸法精度 (0.4mmピッチ以下)” | △ | △ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎=LCP(超高流動・低反り)/ ○=PPS・PPA・PBT/ △=PA12・PA66(吸湿・収縮で微細精度は不利) |
| 高温(>150℃連続) | × | △ | ○ | △ | ○ | ○ | ○=PPS・LCP・PPA/ △=PA66・PBT(おおむね〜130℃級、150℃超は条件付)/ ×=PA12(融点178℃で不適) |
| 耐薬品性 | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○=PA12・PPA・PBT・PPS・LCP(PPSは最高クラス)/ △=PA66(燃料・油は可だが酸・加水分解に弱い) |
| 低吸水 | ○ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○=PA12・PPA・PBT・PPS・LCP/ △=PA66(飽和吸水8%超、GFで緩和するが本質的に吸湿大) |
| コスト(◎=安価) | ○ | ◎ | ○ | ◎ | ○ | △ | ◎=PA66・PBT(安価)/ ○=PA12・PPA・PPS(中)/ △=LCP(高価) |
まとめ
コネクタハウジング材は PA・PPA・PBT・PPS・LCP の5系統に大別され、
「耐熱(リフロー/使用環境)」「吸水(寸法精度)」「機械強度・耐摩耗(物理負荷・挿抜回数)」「耐薬品」「コスト」、そして高速・高電圧では「誘電特性」「CTI/難燃」といった観点で向き不向きが分かれます。
大まかな棲み分けは次の通りです。
・PA66:高強度・耐摩耗が要る嵌合部(吸水には注意)
・PA12:低吸水・柔軟・耐燃料が要る車載ケーブルコネクタ/FAKRAハウジング
・PPA(HTN):高温・リフロー対応の高精度部
・PBT:リフロー不要・精度要・低コストのハウジング
・PPS:高温・耐薬品(ただし脆さに注意)
・LCP:高速信号インシュレータ・微細ピッチ(低誘電)
材料は同じ系統でもフィラー(GF/GB/ミネラル)や添加で物性が大きく変わります。
最終的な保証値は必ずグレードごとのデータシートでご確認ください。

