車載EthernetやSerDesの通信速度が高速化するにつれ、「56Gbps」「28Gbaud」といった表記を目にする機会が増えています。しかし、これらの数値が何を意味し、コネクタやケーブルの設計とどのように関係するのかを正しく理解することは容易ではありません。
特に高速伝送で重要になるのは、ビットレートよりもシンボルレートです。実際にケーブルやコネクタへ要求される伝送帯域や信号品質は、シンボルレートを基準として検討されます。
本記事では、シンボルレートとビットレートの違い、それぞれの関係、高速通信でシンボルレートが重要視される理由について解説します

シンボルレートとは
シンボルレートとは、1秒間に送る「シンボル(記号)」の数で、単位は baud(ボー)です。
シンボルとは、通信路上で一定時間ごとに送られる1回分の信号状態(電圧レベルや位相など)のことです。
変調方式によっては、1つのシンボルが1bitだけでなく複数bitの情報を表現できます。
ビットレートが1秒あたりのビット数(bps)であるのに対し、シンボルレートは1秒あたりのシンボル数(baud)です。この2つは似て非なるものです。
ビットレートとの違いと関係式
両者は、1シンボルに何ビットを載せるかで結びついています。
ビットレート (bps) = シンボルレート (baud) × 1シンボルあたりのビット数
1シンボルあたりのビット数と変調方式
1シンボルに載るビット数は、振幅レベル数の対数で決まります(ビット数 = log₂(レベル数))。レベル数を2倍にするごとにビットは1bitずつ増えます。
周波数(シンボルレート)を上げずに振幅の分解能(レベル数)を増やせば、1シンボルで運べる情報量を増やせます。
| 変調方式 | 振幅レベル数 | 1シンボルのビット数 |
|---|---|---|
| NRZ(PAM2) | 2 | 1 |
| PAM4 | 4 | 2 |
| PAM8 | 8 | 3 |
| PAM16 | 16 | 4 |
1シンボルあたりのビット数を増やす方法には、振幅以外に位相の分解能を上げる方法(QAM/PSK)もあります。
ただし、これらは搬送波の位相を使うため搬送波が必要で、車載の高速シリアルリンクは搬送波を持たないベースバンド伝送です。
このため、振幅多値のPAMが自然で実装も容易であり、PAMが主流となっています。

なぜシンボルレートが重要か
帯域幅を決めるのはシンボルレート
通信路が必要とする帯域幅は、ビットレートではなくシンボルレートで決まります。
PAM4・PAM8などの高次変調は「1シンボルあたりのビット数を増やす」ことで、シンボルレートを上げずにビットレートを上げる技術です。
周波数は同じでも、振幅レベルを4値・8値…と増やせば、その分だけビットレートを高められます。
具体的には、シンボルレートの半分がナイキスト周波数(伝送に必要となる基本周波数)に相当します。
たとえば28Gbaudならナイキスト周波数は14GHzで、これがケーブルやコネクタに要求される帯域に直結します。
ノイズ耐性・S/N比と直結
シンボルレートが高いほど、シンボル間干渉(ISI)が増えます。これは信号の間隔が狭くなり、ひとつ前の波形が次の波形に重なってしまう現象です。
さらに多値化(PAM4など)はレベル間の間隔が狭くなるため、必要とされるS/N比が厳しくなります(PAM4はレベル間隔が約1/3になり、
同じ誤り率を保つには理論上およそ9.5dB余分なSNRが必要です)。
このため、高速通信では“シンボルレートを上げる”ことが最も難しい課題になります。
物理層の限界を決める
ケーブルの減衰、クロストーク、フィルタ特性、コネクタの帯域・反射(リターンロス)特性、EMC(放射)といった物理層の特性は、いずれもシンボルレートに対して制約を持ちます。
シンボルレートが決まると、それを成立させるために必要な物理層の性能が決まります。高いシンボルレートを実現するには、より減衰やノイズの小さいケーブル・コネクタが必要になります。
<具体例:H-MTD® と高速SerDes>
Rosenberger H-MTD® は、周波数 最大20GHz、データレート 最大56Gbps に対応する高速差動コネクタ系です。
仮に 56Gbps を PAM4(1シンボル2bit)で伝送する場合、シンボルレートは 28Gbaud になります(56Gbps = 28Gbaud × 2bit)。
なお、この56Gbpsはコネクタ側が対応できる上限の一例です。実際の伝送レートや変調方式は、採用するSerDes規格やそのギア(速度段)によって決まります。
シンボルレートの要求はEthernetなどの規格やSerDesの仕様で決まりますが、その要求を満たすために、H-MTD®のような高速通信対応のコネクタやケーブルが必要になります。

まとめ
・シンボルレート=1秒あたりのシンボル数(baud)。
ビットレート=シンボルレート × 1シンボルのビット数(求まるのはライン速度。正味データレートはFEC分だけやや小さい)。
・帯域幅を決めるのはシンボルレート。
シンボルレートの半分がナイキスト周波数で、コネクタ・ケーブルの帯域に直結する。
・高次変調はシンボルレートを上げずにビットレートを上げる技術。
車載・高速通信では、シンボルレートが物理層(ケーブル・コネクタ)の限界を決める。
高速通信では「Gbps」という数値だけに注目しがちですが、実際にケーブルやコネクタの設計で重要になるのは、
その通信を成立させるために必要なシンボルレートと周波数帯域です。
高速コネクタを選定する際は、データレートだけでなく、対応可能な周波数帯域やSパラメータ、リターンロスなども合わせて確認することが重要です。

